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AIS(船舶自動識別装置)データを使って、大井埠頭に停泊していた一隻の船を5年間追ってみた。一番停泊期間が長かった場所は?

執筆:Solutions Engineer 新井康平

はじめに

大井埠頭に停泊する船舶を検出する記事を読んでくださった方々、ありがとうございます。
まだ読む機会がなかった方々は是非読んでください。

前回の記事では大井埠頭に存在する船をCVアルゴリズムが検出できるか検証しました。
結果として下記画像のように停泊する大型貨物船(紫色)を検出できることがわかりました。

(2018年10月12日撮影)

船舶を検出することが目的であれば、前回の記事で紹介したCVアルゴリズムで対応できます。ただし、海上におけるサプライチェーンの可視化など要件によっては①高頻度で船舶の位置情報を取得②特定の船舶の航路を把握したい場合があります。上記のニーズに答えるために弊社では AISデータも取り扱っています。AIS(Automatic Identification System:船舶識別装置)とは、安全な航行を目的として船舶同士や陸上の航行補助施設との間で通信を行うシステムです。海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)に基づいて下記の船舶には搭載が義務づけられています。

【AIS搭載義務のある船舶】
 ①300総トン数以上の国際航海する船舶
 ②500総トン数以上の非国際航海する船舶
 ③国際航海の全旅客線

取得できるデータとして「船名」「船舶識別符号」「位置(緯度経度)」「目的地」「計測日時」などが存在し、取得頻度は通常の GPS データ同様に数分〜数十分単位です。特定の場所に停泊する船舶の数を計測して港湾の混雑度を計算したり、船舶単位での港湾/海上における滞在時間を算出することができます。また近年では自律運行や機械学習の特徴量として使用されるなど活用が広がっています。*1

今回の記事では弊社で取り扱っているAISデータを用いて分析します。
地理空間情報分析にご興味のある皆さまに、弊社がどのようなデータを取り扱っているかご理解いただけますと幸いです。

問題設定

コロナ禍の欧米を中心とした需要増大の影響を受け、
コンテナ船の運賃が高騰、海運業界が活況を呈しています。*2
一方で世界的に物流が混乱しており、港湾においてはコンテナ不足・港湾作業員不足の影響もあり、積荷ができずに海上に停泊している「沖待ち」状態の船舶が多くなっています。*3
そこで自分の頭には下記の問いが浮かんできました。

「ある船舶が最も長い時間停泊している場所(港湾など)はどこか」


初期の仮説としては米国LAのロングビーチ港やカナダのバンクーバー港での混雑が上位に来るのではないかと考えられます。この問いに答えることで現状の課題を洗い出すことができ、仮説をたてて適切な打ち手を講じることで「沖待ち」の時間を削減、売上増大 / コスト削減に繋げられる可能性があります。

今回は全ての船を対象に分析することが困難であるため、以前の記事で分析した大井埠頭に停泊していた1隻の船舶に焦点を当て、弊社 AIS データが利用可能な過去5年間を対象期間に設定して分析していきます。

結果・示唆

結論から言うと、停泊していた期間が長い順で「広島県:常石造船所付近」「和歌山県:MES由良ドック株式会社付近」「カナダバンクーバー港付近の海上」が上位3件とわかりました。
最初の2つは造船所もしくは船の修理工場であり、船舶の修理を行っていると考えられます。
一方でカナダバンクーバー港付近の海上で停滞している際には「沖待ち」をしていると考えられ、今後更にブレイクダウンしていくことで深い課題が見えてきそうです。

下記ではそれぞれの結果をご紹介します。

【広島県:常石造船所付近】
こちらは広島県の常石造船所付近の海上であり、473時間滞在しております。
ホームページを拝見するとシップドクターという方々が短期間・高品質で船舶を修繕するサービスを提供しているとわかりました。こちらに停泊をして船舶を修繕していたことが伺えます。

【和歌山県:MES由良ドック株式会社付近】
次に停泊期間が長かった場所は和歌山県のMES由良ドック株式会社付近の海上で、237時間こちらに滞在しております。こちらも船舶修理専門工場を有している会社であり、国内有数のドライドックを有しており、バルクキャリアやLNG運搬船などの大型船にも対応しているとのことです。こちらも同様に船舶の修理を行っていたことがうかがえます。

【カナダバンクーバー港付近の海上】
最後にご紹介するのがカナダのバンクーバー港の海上です。197時間(≒8日)こちらの海上で沖待ちをしていたことがわかります。こちらで2021年の11月に約8日間「沖待ち」をしていたことがわかります。​バンクーバー港では需要増大や自然災害によって、物流の混乱(鉄道路線・幹線路線の遮断)が頻繁にニュースになっております。*4 また別の期間ですが、8日間〜15日間の「沖待ち」が発生しているとのデータもあります。*5

おわりに

弊社が取り扱っている AIS データを使用してある船舶の軌跡を分析・可視化してみましたがいかがでしたでしょうか。

初期の仮説では考えていなかった造船所やドックなど、船舶の修繕サービスを提供している場所が上位に来る結果となりました。バンクーバー港は荷役・輸送の際に混雑することで有名な港湾であるため、仮説として妥当だったかと考えております。今回はより深掘りした詳細な分析までは行いませんでしたが、「沖待ち」が長期化する要因として考えられる「輸送手段」「港湾オペレーション」「船舶」などをブレイクダウンしてそれぞれに適切な打ち手を講じていくことで「沖待ち」時間の削減、船舶を再配置することで売上増大やコスト削減に繋げられる可能性があります。

弊社では AISデータのみならず、衛星画像やその他携帯電話から取得できる匿名化された GPS データも合わせた地理空間情報分析の提供が可能です。ご興味がある方は是非お問い合わせください。

【参考・出典】
*1.https://www.mol-service.com/ja/blog/ais-bigdata
*2.https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC289840Y2A120C2000000/
*3.https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001403344.pdf
*4.https://www.daily-cargo.com/news/shipping/2021/12/143689/
*5.https://www.logi-today.com/420565


【お問い合わせ】
 https://jp.orbitalinsight.com/#contact

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