マイク・キム、アジア太平洋地域責任者 兼 日本統括

今回執筆のRevisitでは従来とは別のアプローチで、Orbital Insight アジア太平洋地域責任者 兼 日本統括として日本でビジネスをするアメリカ人の視点から、「コミュニケーション」というテーマと組織のダイナミクスという観点でいくつかの考えを共有したいと思います。この記事が示唆に富み、日本でビジネスをしている外国人やイノベーションを追求している日本のビジネスリーダーなど、一部の読者の役に立つことを願っています。

これは包括的な調査でも、また調査をベースとした記事でもありません。私個人の経験を共有し、日本でビジネスとイノベーションを進めるにあたって、適したコミュニケーションというテーマについて私が信じる定義と、共感したソート・リーダーシップの事例を提示することを目的としています。

スターバックスの歴史を知れば知るほど楽しいですが、同社が海外展開した初めての国が日本であることを最近学びました(偶然にも、いま六本木のスターバックスでコーヒーを飲みながらこの記事を書いています)。ハワード・シュルツは、CEOとして会社に戻った際(その数年後に会長に就任)、補佐官のような役割を設置し、シュルツの新しい経営陣の中で最年少となるミシェル・ガスを任命しました。シュルツは彼女を選んだ理由として数多くの特質を挙げましたが、そのうちのひとつは、ガスが彼に「反対意見を述べる」ことを躊躇しなかったことだと話しました。シュルツがそのことに価値を見出していた事実は、ビジネスリーダーにとってはある意味、驚くべきことかもしれません。

以前、入社して間もない日本人メンバーに対して、「君が率直に発言し、アイデアに対してチャレンジしてくれて嬉しい。今後もそうして欲しい。」と話したことがありました。そうすると彼は心配そうな顔で答え、「誤解しないでください。私は反論してるわけではないのです」と弁明しました。私は彼を安心させるために、その場で異なる意見を伝えることはアメリカのビジネスにおいては良いことなのだから、心配するべきではないと伝えました。

現状に満足せずチャレンジし、アイデアに対して常に疑問を投げかけ、オープンな会話と議論ができる文化を受け入れるというテーマは、長年にわたって私が興味を持ち続きてきたものです。リーダーシップとしての旅が始まった当初、優れた実績を出しているチームにはオープンな会話と議論ができる文化があることを学びました。その理由は、最も高い地位にある人々や最も大きな声を出す人々だけではなく、全員の頭脳を十分に活用すれば、それだけチームが成功する可能性が高くなるためです。

このことは私の頭から離れなくなりました。最良の思考を引き出し、最終的に最良の決定を下せるようにするために、早い段階からチームでオープンな会話と議論の文化を促しました。序列、敬意、年齢を重視する日本やアジアのビジネス文化において、このテーマを考察することは特に興味深いことです。

序列社会におけるオープン・コミュニケーションとイノベーション

誤解のないように言うと、序列と敬意に重きを置くアジアの文化は美しいものと思っています。序列は適切に機能していれば資産となるでしょうが、他のシステムと同様、潜在的な落とし穴があることを認識し、それに応じてリスクを管理する必要もあります。

MITスローン・マネジメント・レビューの記事「階層についての真実(The Truth About Hierarchy)」で、著者のブレット・サンナーとシチュアート・ブランダーソンは、「『適切な階層』がより優れたイノベーションを生み出し、学習できるチームの形成に役立つ」ことを例とする研究が増えている点について指摘しています。

「適切な階層」とは具体的にどういうことを意味するのでしょうか。序列と敬意を重んじる文化では、イノベーションを可能にするために、手法を採用し、仕組みを導入する必要があります。これには、決定を行うための議論が必要です。このことがどう映るかは、文化やチームによって異なりますが、全てのアイデアを出し合うコミュニケーションを受け入れる文化を支持することを意味します。ビジネスと技術においてこのことは、イノベーションを目的として行われます。

一例としてサンナーとブランダーソンは、チームメンバーが自らの知識を活用して「大胆と思われるアイデアを提案し、不可侵と思われる領域にもチャレンジする」ことができる環境を提案しています。著者らは、このような行動は「対人関係において、メンバーを嘲笑や社会的制裁にさらすというリスクがある」とも付け加えています。また、序列と敬意を重んじる文化では、率直すぎることによりキャリアに影響が生じるリスクがさらに高くなります。

日本のように序列と敬意が根付いている文化では、オープン・コミュニケーションを実現するために、私は簡単な2つの戦略を使っています。まず私のチームには、常に彼らの考えを述べ、アイデアを議論し、リスクを恐れず、私や社内の人の考えにもチャレンジすることを奨励します。この狙いは健全で力強いコミュニケーションの基盤を持ち、優れた実績を上げられるチームになるためであると伝え、全員と目的を共有します。

第二に、チームの誰かがチャレンジしたときには、しばしば彼らを励まし、議論を行うことを高く評価していると伝えます。それが許容される行動であることを知らせることが重要だと思います。最後に、模範となる行いを強調し、良い例として公に称賛します。例えば、私の会社のリーダーの1人が、国際会議で日本チームのメンバーが率直に意見を述べたことを話してくれました。「私は彼(日本チームのメンバー)が講演者の意見や仮説にチャレンジし、簡単には引き下がらなかったことがとても気に入りました。彼の会話の推し進め方や、譲歩しなかったことに非常に感心しました」。私はこのチームメンバーに、リーダーからの前向きな評価を共有し、アメリカのビジネスではこのような行動が、模範となる尊重される典型であることについて興味深い良い議論をしました。模範となる行動に気付いた時には、できる限りそれを強調し、称賛するようにしています。

一人当たりのイノベーション数で世界第1位のイスラエルの例

今日のような競争環境の中で勝つためには、人的資本を最大限に活かし、それをイノベーションの活力とする必要があります。前述したように、イノベーションはオープン・コミュニケーションによって導かれます。

イスラエルのイノベーションから興味深い例を見つけることができます。ソール・シンガーとダン・セノアの著書『Startup Nation』で、イスラエルが今日、世界で最もイノベーションと起業家精神が集中している国であると指摘しています。具体的には、スタートアップ密度が最も高い国です(人口1,844人当たり、1社のスタートアップ)。イスラエルの人口は710万人に過ぎませんが、NASDAQに上場している企業数は米国に次いで第2位にランクされています。Googleの元CEO兼会長のエリック・シュミットは、イスラエルは起業家精神において、米国に次ぐ世界第2位であると語りました。

なぜイスラエルなのでしょうか。そしてイスラエルはどのようにしてそれを可能としているのでしょうか。考えられることのひとつとして、著者は、「粘り強さ、権威への飽くなき挑戦、断固として形式にとらわれない視点、そして、失敗、チームワーク、使命、リスク、複数の学問領域を超えた創造性に対する独自の姿勢」に関係しているという見解を提示しています。

多くの場合、最良のアイデアや活動は組織のトップから出てくるのではなく、よって人的資本を最大限に活用し、各従業員から結果と生産性を引き出せるビジネス文化が必要です。例えば、ブレインストーミングを行い、すべての従業員から最良のアイデアを引き出すことにより、彼らの知的力を十分に活用することを意味します。チームメンバーのアイデアが私よりも優れていることが何度もあることは個人の経験として断言できます。従って、彼らが率先してそれらを共有することがなければ、我々にとっては損失となるでしょう。

Startup Nationの中で、イスラエルでのビジネス会議に参加した経験について、熱意のこもった議論と「すべての質問が洞察力に優れたもの」だったことに言及しています。もう一つのポイントとして、「誰が誰のために働くのか」を考えさせられたことだと述べています。敬意を重んじるいくつかのアジアの国々にとって想像し難いでしょうが、これらには後述する内容に関して重要なポイントが含まれています。

イスラエルが一人当たりのイノベーションにおいて世界のリーダーであることと、オープン・コミュニケーションと現状にチャレンジするビジネス文化を持っていることには相関関係があると私は確信しています。これには世界中の政府関係者やビジネスリーダーが学ぶべき教訓があると思います。このようなビジネス文化の重要性はますます注目されており、例えば、一部のアジア諸国の政府関係者がStartup Nationの内容に大いに注目し、その教訓をどのように自国に適用できるか真剣に検討していると聞きました。

日本のイノベーション

では、日本の話に戻りましょう。日本のビジネスにおいて、これらすべてはどのように適応できるでしょうか。

私は日本でビジネスをするのが大好きで(東京は世界の中でも好きな都市です)、イノベーションに関して日本が再びグローバルリーダーになることを望んでいます。地政学的・地域安全保障の観点から、日本が強く、繁栄し続けることは、世界にとって重要です。

日本でビジネスをしているアメリカ人の私見から、この記事の中には日本のリーダーにとっていくつか参考になる点があると思います。今日のように急速で、グローバルで、複雑で、経済競争の激しい中では、オープン・コミュニケーションと議論の文化を必要とするイノベーションを粘り強く追求することなくして、長期的に組織が勝ち残ることはできません。そして、序列と敬意を重んじる環境でのビジネスリーダーの責任は、アイデアを自由に出し合えるコミュニケーションを実現させるための仕組みと手段を適所に配置することです。先述した通り、序列と敬意の文化は資産となり得ますが、効率的なコミュニケーションを犠牲にすることはできません。

多くのことを成し遂げている非常に優れた今日のリーダーたちを観察しながら、健全で力強いコミュニケーションの文化を築き、最終的にイノベーションを追求するリーダーたちの例を見つけ続けています。常にアイデアに疑問を投げかけ、オープンな会話と議論ができる文化を受け入れることは、今日のグローバルで、競争が激しく、ペースの速いビジネス環境におけるイノベーションと起業家精神にとって重要です。

日本企業が欧米企業のようになる必要があると言っているのでは決してありません。ただし、取り入れられる仕組みや手法があるかもしれません。考えられる具体的な例として、個人やキャリアをリスクにさらすことなく、安全にアイデアについて議論し、情報にチャレンジできる時間と場所を設け、実践してみることなどです。

この記事の冒頭のスターバックスの例に戻ると、会社は2008年、あらゆる指標において過去最悪の業績不振の真っ只中にありました。そんな中、ハワード・シュルツは苦戦するスターバックスを復活させる目的をもって2期目のCEOとして戻ってきました。会社の指揮をとり始めると、彼はリーダーシップチームを探し出し、そのチームの人的資本を最大限に活用することに注力しました。前述したミシェル・ガスの例で、シュルツが探していた資産の少なくともひとつが「異なる意見」で、それにより彼とは異なる考え持った人々の頭脳を利用することができると強調しています。これはひとつの事例にすぎませんが、このことがスターバックスのイノベーションの追求と、その後の会社の立て直しを成功させるための自らの改革に貢献したと言っても過言ではありません。