執筆:Kunio Shimizu, Senior Solution Engineer at Orbital Insight
2018年以降、米中貿易戦争の長期化を受けて、対米輸出の生産拠点を中国からミャンマーを含む ASEAN 諸国国に移転する動きが世界で加速しています。また、日系企業の進出も同様に増加の傾向です。
中でもミャンマー最大の都市、ヤンゴン南西部に位置する「ティラワ経済特区」は、中国、タイなど東南アジア諸国からのアクセス、海運へのアクセスの良さから、様々な外資企業が進出しています。
ティラワは日本企業が参画したミャンマー初の経済特区 (SEZ)で、2013年以降、日本政府が円借款を通じ電力、港湾(河川港)、道路、水道、通信などの周辺インフラを整備。同時にミヤンマーと日本の官民共同事業体が、工業団地を開発しています。
2019 年時点でティラワ経済特区に入居する世界各国の企業は 101 社に達しました。日本が開発段階より関与した経緯から、投資元は日本企業が 53 社を占めています。ところが 2018年以降、米中貿易戦争の拡大による課税を回避するべく、各国の企業は製造業を中心に、相次いでティワラに進出しています。
この「ティラワ経済特区」は、今年( 2021 年)2 月 1 日に勃発したクーデータで、どのような影響を受けたのでしょう? また、近隣諸国へのサプライチェーンがいかに変化したでしょうか?弊社のプラットフォーム、Orbital Insight GO®(オービタルインサイト・ゴー)の Supply Chain Traceablity(サプライチェーン・トレーサビリティ)を用いて分析したいと思います。
ヒートマップで可視化 — ティラワ経済特区内の変化
まず、Orbital Insight GO® のヒートマップ分析を使い、クーデーターの前後で経済特区内の人手がどのように変化したかを見ていきます。
すでに、ティラワ経済特区内のトヨタ自動車の新工場稼働が、クーデーターの影響で遅れたとの報道がありましたが、他の日系企業の状況も考察してみましょう。
ライディーン株式会社によると、ティラワ経済特区内の主な日系企業工場の位置は下のとおりです。
https://www.wisebk.com/wisebusiness2017/plus1/myanmar_sez.html
このマップの南部、「ZONE B」周辺には、トヨタ自動車の工場が建設されていました。
ヒートマップで人出の変化を把握
では、ヒートマップでティラワ経済特区内の人出の変化を、クーデター前後で比較します。下の画像では、人出を表すマークのグラデーションが、薄い緑色から濃い青色へと変化するほど、人出が多いことを示しています。つまり、濃い青のマークが表示されている場所は、人出が集中しています。
クーデターが 2 月 1 日に勃発する前、1 月 25 日の人出は平時らしく道路や工業地域中心部への集中が見られます。
地図と比較すると、自動車メーカーのスズキIの工場や、ロジスティック拠点に人が集まっている様子です。また、南部の ZONE B 地区、トヨタ自動車の工場予定地にも人がいることがわかります。
しかし、クーデター発生から 2 カ月が経ち、軍による市民弾圧が激化する中、3 月 25 日には A 地区の人出はほぼ消え、道路を走る人出もなくなりました。
かろうじて B 地区に人出が確認できますが、クーデター前から激減しています。
クーデターにより、ティラワ経済特区の工場などは、ほとんど稼働停止を余儀なくされていると考えられるでしょう。
国内外のサプライチェーンへの影響
ついで、クーデターが国内外のサプライチェーンへどのように影響しているかを見ていきます。
まず、ミャンマー国内のティラワ経済特区内を起点とするサプライチェーンを、クーデター前後で比較します。
下図の緑の点は「Before」、つまりティラワ経済特区内に至るサプライチェーンを表しており、赤い点は「After」、すなわちティラワ経済特区内から始まるサプラチェーンを表しています。
ミャンマー国内における変化は、下のとおりです。
流通の総量が、格段にに減っていることは歴然です。
クーデター前後もヤンゴンへの流通が滞ってないことがわかります。しかし、クーデター前に伸びていたした北部の都市「ネビドー」へのサプラチェーンは、東西の 2 つのルートがあった様子が、クーデター後は西ルートが消滅してしまったように考えられます。
また、ヤンゴン西の都市パセインや、ミャンマー国外ではタイのバンコクへの、ティラワ経済特区からの流通量はクーデター前から激減しています。
次に、ミャンマー国外と間のサプライチェーンの変化を見てみましょう。
こちらもクーデター後はティラワ経済特区を起点とする流通が、相当、滞っていることが確認できます。
クーデター以前は、東はオーストラリアの都市や、日本国内も各地へ供給網が伸びており、他にも韓国、中国、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールに至っています。西側もインド、イラン、サウジアラビア、トルコまでサプライチェーンが伸びています。
クーデター後の 3 月には一転、オーストラリアへのサプライチェーンがなくなり、日本は東京のみに。韓国、中国、マレーシア、インドネシアへの供給網も激減しています。西側も同様です。
上図から、ミャンマーのクーデータがティラワ経済特区のサプライチェーンに及ぼす影響は大きいことがう伺えます。
前述のとおり開発の経緯上、ティラワ経済特区には日系企業が多いことから、日本のサプライチェーンへの影響は他国に比べ大きくなります。、クーデターの前後では、下図のように、東京以外の都市が多数、供給網から遮断されています。
Orbital Insight は、様々な地理空間データを分析し、以上のように世界中のサプライチェーンをとらえてその変化を可視化、数値化することで、お客様の意志決定をご支援するプラットフォームを提供しています。
ご関心のある素材や原料、サプライチェーンなどございましたら、お気軽にお問合せください。